9/14/2018

前回の続きです。今回はQ&A的に書いてみます。

ネット上にある多くの歩行モーションのチュートリアルは基礎部分を抑えた内容がメインになっています。その通りになぞれば最低限の歩行クオリティは達成出来ますが、そこから一方先のクオリティに進むにはある程度の試行錯誤は勿論、見る目(観察力)も必要になってきます。見抜く力(見る目)と言うのは何が良くて何が悪いのかを具体的に掴める力です。見る目があれば修正すべき点も明確になります。

今回はネット上の他人様の歩行モーションを引用させて頂き、そこから具体的な問題点を抜き出してみます。
では早速、以下の動画の歩行モーションを見て下さい。

https://www.youtube.com/watch?v=l_2r4-aTRG8
(動画右下の設定ボタンからはスロー再生も利用出来ます。)
この動画のモーションには初心者が犯しがちな定番的なミスが幾つか含まれています。
次回は、このモーションの問題点を書き出してクオリティの注意点(要点)として纏めてみたいと思います(当記事の下に追記します)。(もし暇で興味あれば、独自で問題点を抜き出してみてください。)


(9/17追記)
では実際にクオリティの問題点を書き出してみます。
まず始めに歩行モーションの基礎部分です。

1)ダウンとアップポーズが抜けています。
下図左がパシングで右がコンタクトポーズです。その両ポーズの間には本来、腰を落とし込むダウンポーズが入るのですが、そのポーズが無い為に図を見てもわかるように腰の重心がやや後方に置き去りになっています。(キーポーズに関しては前々回の記事を参照下さい)

2)パシングポーズで腰の左右の重心移動が抜けてます。
通常、右足接地のパシングポーズでは右側に重心移動し、左足接地のパッシングポーズでは左側へ重心移動させる必要がありますが、足の接地でしっかり内側に入り込んでいる歩行であれば左右への重心移動量は少なくても違和感には繋がりません。ですが、動画では足が内側に入り込む量はほぼ無く、且つ腰の左右の重心移動が無い為に物理的な違和感に繋がっています。(ちなみに、走るモーションの場合では下向きのベクトルよりも進行方向のベクトルが大きくなり左右の重心移動量は少なくなります。)
下図ではパシングとコンタクトポーズを重ねて表示しています。パシングで腰(重心)の左右移動が行われていれば、両ポーズ間で左右の重なりのズレが発生しますが、図の黄色矢印部を見てもわかる通り、腰部(重心)の左右移動が全くありません。
(動画ではヒップボーンで腰を振っていますが、それは腰の左右移動とは違ます。)

3)肩(胸/鎖骨)の前後の回転運動がありません。(図の黄色矢印方向)
側面から見て腕を前後に振り切った位置で上腕の付け根の左右中心が同じ位置になっています。

4)足(下腿)が前方から後方へ移動する時と、後方から前方に移動(回転)する時の速度差がほぼ等速になっています。通常、足(下腿)は後方から前方に移動(回転)する時に速度が上がります。言い変えると足が接地してる時間に対して、足が地面から浮いてる
時間の方が短くなければいけません。この動画をコマ送りで確認してみると、接地12コマで、非接地が15コマです。その差3コマしかありませんから感覚として等速に感じてしまいます。(ちなみに通常の接地/非接地の時間割合は約10:6程度です。)


以上が基本的と言える部分の問題点です(抜けてる点があるかもしれませんが。。)。
以下は追加のクオリティの注意点です。

1)この動画では腕を後方に振り切った位置で腕が完全に伸び切るモーションになっていますが、通常、腕が伸び切る位置は上腕が垂直に下りた位置、若しくは若干後方になります。個体差とすれば必ずそうなるとは限りませんが、ベーシックな歩行モーションとしてはそうした方が腕の振り下ろし速度が自然に見えます。(腕が伸び切らずに曲がったままの歩行や、腕の前振りで伸び切る場合はこれに限りません)
以下はリアルの参考動画と簡易解説図です。
https://youtu.be/HJm87C1Euuk?t=108
https://youtu.be/ZWmqjnwjtTM?t=153

2)動画では上腕の付け根を中心として、上腕の前後の振り幅がほぼ均等に振り分けられていますが、通常は上腕付け根を中心として、前方に振り切る量(角度)よりも後方に振り切る量(角度)の方が少なくなるのが自然です。但し、意識的に腕の振りを大きくしたり、小さくするモーションの場合はこの限りではありません。

3)動画ではキャラクターを正面から見た時の腕の振りの軌跡がZ軸(画面から奥行方向)で平行に移動していますが、通常は腕を前方に振り抜いた時は手が体の内側に入り、後方に振り抜いた時は手が体の外側に逃げます。

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他の定番的と言える問題点を追記しておきます。
これも他人様の動画ですが、足が前後に振り切る付近で膝にカク付きが発生しているのが確認出来ます。これも歩行クオリティとしては良くないモーションです。
https://www.youtube.com/watch?v=FEHWx1qAVuc

結論から書くと、足が接地する直前の数フレーム内で大腿の回転が逆回転(膝が後方移動)しているとカク付きとして現れ易くなります。上の動画をコマ送りしたのが下図です。
図の①→②への大腿の回転方向(黒矢印方向)を正回転とした場合、③→⑥の回転で大腿が逆方向へ回転(黒矢印方向)していることがわかります。
(②の黄色線(大腿の角度)を⑥へコピペしたのが緑線になります。⑥の黄色線の角度よりも②の緑線の角度方が大きいことが分かります。つまり、②→⑥へ黒矢印方向へ大腿が逆回転(膝の位置が後方移動)してます。)
尚、足の接地直後から腰の沈み込み(ダウンポーズ)が始まる為、接地直後の数フレ間は正方向の回転になります。つまり③→⑥で逆回転し、その直後に正回転する動きが数フレ以内で発生しているので、膝のカク付きとして現れます。

実は当記事の冒頭で紹介した動画にも大腿の逆回転は発生しています。しかし、その動画では目立ったカク付はありません。この理由は先述したように足が接地した直後のルートの沈み込み(ダウンポーズ)が抜けているからです。つまり、コンタクトポーズ前では逆回転→コンタクトポーズ後も逆回転しており、回転が一方向に連続している為、カク付きとして現れないと言うことです。しかし本来はコンタクトポーズ前が正回転→コンタクトポーズ直後も正回転(ダウンポーズ迄)、そしてパシングポーズに向かってスムーズに逆回転(足が後方移動)となる動きがベーシックな大腿の回転運動です。

ここ迄は足を前方に振り切った時のカク付きとして説明して来ましたが、足を後方に振り切った時のカク付きもあります。只、何れのカク付きであっても大腿の回転を見ていればカク付きを引き起こす原因を探し出すことは可能です。長々と書きましたが、端的に言えば「FK回転を意識したIK制御を行う」ってだけのことです。

大腿が逆回転していてもフレームレートが低ければカク付きとして現れない場合もあります。低レートだと補完フレームが少なくなる(リミテッドだと無くなる)ので、モーション(カーブ)の粗は表に出難くくなります。ですが、個人的にはリアルなモーション(カーブ)を習得するにはフルフレーム(24fps以上)での制作をお勧めします。(リアルではフレームの区切りはありませんから)

最後に、纏めようと思ったのですが力尽きちゃったので止めときます(苦笑。
ですが、ここに書いた内容が歩行モーションの全てではないことは注意して下さい。例えば歩行に限らずキャラクタモーションの要は腰(ルート)の動きです(ヒップファースト)。ルートが悪いモーションは枝葉の動きにも悪影響を与えます。腰の動きを見定めて腰から派生する動きを掴むこともクオリティの要となります。その他、背骨の回転(S字)運動やフォロースルーやオーバーラッピング等のタイミング関連など、ここでスルーした内容は多々ありますので注意ください。

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